
○セサール・バサン 12R判定 坂本博之●
<試合前の私の独断コメント>
ジョンストンが負けてしまった。坂本の標的が変わってしまった。
坂本の人柄かWOWOWの番組内でも戸惑いを素直に露出させた。一年間サウスポーの事だけ、ジョンストンの事だけで頭が一杯だったとも言った。戦略面でもサラスと共に入念な分析も着々と進行中だったと聞く。しかし!番組中に浜田氏が言っていた様に、すぐに頭を切替えて今度はターゲットをバサンに絞り直して心身共に最高のコンディションで横浜アリーナのリングに上がってほしい。
両者の戦力及び相性を考えると、バサンは坂本にとって間違い無くジョンストンよりも組み易い相手のはずだ。ジョンストンと違ってバサンは素直な直線的な動きで、坂本のパンチがヒットする可能性は高い。但し、裏返せば坂本が被弾するリスクも当然伴う。カウンターでバサンの長い左、懐に入ってからの突き上げる強烈な左右アッパーに屈しないとも限らない。両雄とも攻撃力に長けた、言い換えればデュフェンスにやや難のある選手に思えるので、何れにしても両者己の刃を誇示し合う展開になるだろう。バサンの打たれ強さに関してはよく分らないが、どちらのパンチが早く相手を捕らえるか!序盤からスリリングな倒し合いになるかもしれない。
実力的に見て両者互角、正面からぶつかる力勝負が予想されるが、強靭な「ハート」をもった坂本の悲願達成を期待する。また、参謀に付くであろうサラスの存在も大きな力になるだろう。
後半KOで戴冠だ!!
<試合後の考察>
判定でバサンの勝ち。
結果を言えば完敗だった。戦前に筆者が考えていた以上に両者には大きな実力差があった様だ。
最初から坂本にはジャブからワン・ツーの綺麗なボクシングは期待していないし、無責任だが体勢を崩しながら左右フックを強振するスタイルを貫いてほしいとも思っていた。そして、その無骨なファイトがバサンにプレッシャーをかけ、ある程度接近した戦いが出来ると考えていた。しかし、悲しいかな坂本の“テクニック”では世界に太刀打ち出来ない現実を(ジョンストン戦に続いて)痛感させられた。日本、東洋レベルの格下の相手ならば強引に力でねじ伏せられるものが、世界レベルの格上の相手になると逆に遊ばれてしまう。(かつて吉野弘幸に対しても同じ歯痒い思いをしたものだ)バサンは世界的に見れば決してテクニックがある方ではないし、器用とも思えない。正直、坂本と比較してもテクニックで絶対的なアドバンテージがバサンにあるとは思っていなかった。メンタル以外の全てのファクターでバサンが若干上回っているとは考えていたが、少なくとも競った内容になると思っていた。しかし...私の採点ではほぼフルマークに近い状態でバサンの勝利。
試合自体は前述の様に坂本の完敗だった。しかし、勝敗は度外視して素晴らしいファイト、感動するファイトを坂本は見せてくれた。坂本本人にしてみれば負けた試合を誉められても仕様が無いと言うかもしれないが、あの打たれても打たれても前進を止めない姿は感動を通り越して驚異的ですらあった。あれだけ被弾してダメージが無い訳は無いのにそのそぶりも見せない、全く怯む事なく愚直に力強い足取りで前進を繰り返す彼を見ると、(坂本のハングリーな生い立ちが必要以上にクローズアップされているせいもあるが)不覚にも涙腺が緩む。
今のままのスタイルでは世界の頂点に上り詰めるのは非常に難しいとは思うが、坂本には何としても世界を獲ってほしい。プロとして一流とは言えない世界王者もいるが、少なくとも坂本は見る者を感動させるボクニングをする。その面では世界王者にも引けをとらない。
ただ、蓄積されたダメージが肉体を蝕んでいない事を祈らずにはいられない。