ドイツやオーストリアを含むヨーロッパでは、近代以降、作家が新しい小説を発表する時にその作品を聴衆の前で自ら朗読する『自作朗読会』を開くということが一般的に行われてきました。 朗読会は文字の字面ではなく、言葉の響きで散文作品を楽しむことができるため、聴衆に、活字を目で追う『読み』とは違った新たな発見をもたらしてくれます。
そして作者にとっても、自らの言葉を『音』にすることを意識できるため、言語感覚を磨く絶好の機会となります。
しかし日本では、残念なことにこの習慣はほとんど定着してきませんでした。
この企画は、そのことを以前から疑問に思っていた小島輪具名が、自ら書いた散文を使ってこの『自作朗読会』を日本で開いてみたい、と考えたのが発端です。小島は立教大学ドイツ文学科で修士課程を修了した後、1998年から2000年にかけてオーストリア・ウィーンに留学し、そこでオーストリア・ハプスブルク帝国史を研究するかたわら、ヨーロッパ文化の探求に努めてきました。
小島の帰国後、その意見に賛同してくださった女優の熱田直美さんが、この企画に参加してくれると申し出てくださったことにより、企画が実現にむけて走り出しました。
さらに呼びかけに答えて、小島の友人たちが続々と駆けつけてくれました。
小島の横浜平沼高校時代からの友人、横浜室内管弦楽団(横浜平沼高校OBを中心としたオーケストラ)のチェリストである小川裕子さん、そしてウィーン時代の知人であるカメラマンの田中みどりさん。
朗読に加え、彼女たちのもつ力を、今回の企画に融合させてみようという事になりました。言葉を『読む』ことにかけては巧みな女優と、技術はなくても、その文章の制作過程を一番よく知っている作者による朗読。そこに「人の声に一番近い楽器」と言われるチェロの音と、文章のイメージを膨らませる、ウィーンの画像のスライド上映が加わります。今回の企画は、私たち仲間の一人一人が持つ能力を立体的に組み合わせることによって、ヨーロッパの『自作朗読会』の模倣ではない、日本での新たな『自作朗読会』の形を生み出そうという試みなのです。